「マッスルメモリー」って…存在するの?

Acropolis of Athens

写真:アテネ、アクロポリス

「マッスルメモリー」

バレエやダンスの世界ではよく聞く言葉です。

考えなくても身体が勝手に動く感覚で、ダンサーさん達が振付を考えなくても踊れる状態になることが良い例でしょうか。

でもこれは科学者さん達にとっては意味のわからない話。

あっさり「そんなの存在しません」

ふと思い出した大学院での授業の一コマが実践に繋がった事の一つです。

4週間とあるバレエ団にて振付指導をしていました。7割ほどはセットできましたが、残りの指導が始まるまで、2ヶ月間が空きます。当然他の作品の公演が12月にありますから、私が指導した作品はおそらく全くリハーサルされないはず。さて2ヶ月後にどのくらいダンサー達が振りを覚えていられるのか、興味があるなぁと考えていました。特に最後の数日に指導したセクションはリハーサルがほぼされていないので、忘れがちなはず。

そんな事を考えていた時に、ふと思い出した大学院での授業の一コマ。

その日の授業はスポーツ科学の研究者でもあり、イギリスの著名なバレエ学校で生徒達のコンディショニング・エクセサイズを担当しているN氏。授業の内容はScience of Training(トレーニング科学)でしたので、どのような流れで「マッスルメモリー」が話題に上がったのか覚えていないのですが、自分にとっても印象的な内容でしたのでよく覚えています。質問をしていたのは大学院生徒の1人でプロのダンサーさん。

生徒:ダンサーは”マッスルメモリー”を使って膨大な量の動き(振付)を覚えますが…

N氏:おっと、ストップ! ”マッスルメモリー” なんて存在しないよ。

生徒:もちろん存在しますよ。振り付けを「考え」なくても動けるようになります。

N氏:筋肉は考えないよ。覚える機能も持ってないよ。

生徒:でも筋肉が自動に正しい方向や正しい動きをするようになる、筋肉が覚えています。

N氏:それでは筋肉の記憶がどのように形成されるのか、説明してみなさい。

生徒:何度も同じ動きを反復していく過程で、自動化されていきます。

N氏:自転車をどう乗るのか忘れないのと同じ?

生徒:そうそう。

N氏:オーケー。筋肉は収縮するだけ。「考え」たり「覚え」たりはしないよ。覚えたり記憶そする機能は脳が司っている。脳が指令を出さなければ、骨も筋肉も動かない。脳には動きを学習しそれを自動化する機能がある。ダンサーが良く言う ”マッスルメモリー” はそこで形成された「記憶」が筋肉に指令として伝わり、身体が自然に動く状態を示しているんだよ。

※会話の内容は少し手を加えています

 

確かにそりゃそうだ。

筋肉は考えない…。

 

でも”マッスルメモリー”があると

自分もすっかり信じて、

長年使っていました。

考えずに鵜呑みにしていたんですね。

 

言い換えると

脳で自動化されていない情報は

身体が効果的かつ自動的に動く事につながらない。

さらに今自分が考えていた問題

「ダンサーさん達、振付忘れそうだなぁ」

と関連付けると…

 

振付けを記憶に残すには

リハーサルをして、身体を実際に

動かさなければならないわけではない。

 

脳に刺激を与えれば記憶の形成に役立つ。

しかも少し期間を空けて思い出す方法

“Interval learning” (インターバル・ラーニング)

が効果的だろう。

 

ダンサーさん達にさらっと

”マッスルメモリー”

が存在しない事を説明すると

やはりかなり驚きの反応。

 

リハーサルがない時間などを使って

時々座りながらでも良いので

リハーサル録画などを見てくださいとお願いしてきました。

 

もちろん思い出す際に軽く動いたりできれば

脳からの指令が

筋肉に届く道も刺激されるので

さらに◎

頑張ってフルパワーで練習しなくても良い

場所がなくても良い

効果的な振り付けの覚え方。

 

これは実は怪我をしている時のイメージトレーニングや

先生から受けたコレクションなどを

脳に刻み込む(=身体の動きの自動化)にも効果あり。

 

さぁ2ヶ月後に皆さんの記憶がどうか

楽しみです。

研究者さんにとっては

各ダンサーが

2ヶ月の間に

  • 何度録画を見たか
  • どのくらいの期間を置いて見たのか
  • 結果はどうだったのか

とかのデータ取ると面白いかもしれませんね。

私はその気力は…今はないです!!

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