シンデレラ シンドローム!?

プラハ、国民劇場

 

他人の評価と自己評価

そしてなぜダンサーという

トゲトゲがたくさんの

イバラの道の人生を選ぶのか…

が今回のテーマです。

長めの文になりますが

お付き合いいただければ幸いです。

 

目次

疑問:ダンサーは舞台上で何を感じている?

音楽もバレエも

幼少から経験している

ドイツ人の友人と

多くを語りあった際に

熱くなったお話。

 

彼女はバレエの

技術的な難しさだけでなく

プロダンサーの世界が

どれだけ厳しいのかも

よくご存知

その彼女がとても興味深い

疑問をぶつけてきました。

 

「美しい表現は内面から溢れ出る。

異次元の世界のようなバレエの美は

そうでなければ表現できるはずはない

と思う反面

厳しい環境で

毎日を過ごすダンサー達が

どれほどの割合で舞台の上で

本当に内面からの喜びや美を感じて

踊っているのだろうか?

と疑問に思う。」

 

ん〜深いっ。

さて結論が出るまで

何時間話すんだろう!?

と不安になりつつ、スタート!

他人の評価

彼女のいう

”厳しい環境”は

高度な身体能力が求められる

バレエやダンスの環境は

もちろんですが、

精神面や心理面での

厳しさがメインの疑問。

 

ドイツでは「アート」は主に

2つのカテゴリーに分けられます。

 

Bildendende Kunst

(ビルデンデ クンスト)

= ビジュアルアート

Darstellend Kunst

(ダーシュテレンデ クンスト)

= 舞台芸術

 

色々なケースがあると思いますが、

絵画や造形美術

その他多くの

クリエイティブなことに関わる

ビジュアルアーティストも

舞台芸術に関わる

そして主に舞台上に出るアーティスト

ダンサー、俳優、歌手なども

プロとして活動するには

「他人がどう思うか、

他人にどう受け取られるか」

がキーになります。

 

「人がなんと言おうと関係ない!」

と自分を信じて

我が道を行くことは

なかなか困難。

 

プロである以上は残念ながら

自己満足では足りない。

 

他人の評価に左右され

評価の基準も不透明な事が現実。

ストレスがたまりがちです。

 

この2つの分野のアーティストが

評価を受ける際に決定的に違うのは、

ビジュアルアーティストは

自分が作った作品が評価される。

舞台芸術家は

”自分自身”

が評価される。

自身が多くの人の前で

評価される事だと思います。

 

人の好みは十人十色

他人の評価は主観ですから

オーディションなどでの

一時的な評価に

振り回される必要がないことを

以前アイスクリームの味に例えて

書きましたが、(こちら)

人間ですから…

好ましくない評価がされた時に

自分という存在が

否定されてしまったような

気持ちになりがち。

 

これは場合によっては

かなりの心理的なダメージに…

 

心を強く保ち

前向きに考えられる時と

そうでない時がある。

誰でもそうですよね。

 

自己評価

カナダ人心理学者

Bandura (1977) は自己評価について

このように説明しています。

人々は自分の経験、

特に自分の属性や

能力について何かを反映する

ドメインでの

パフォーマンスに基づいて、

自分自身を肯定的または否定的に

評価するようになる

 

私たちは

他の人がどのように自分を評価しているか

という基準に基づいて

自分自身を評価します。

(Leary, M. R. & Terry, M. L., Aug 2013)

**オリジナルの英語と引用者注は↓

 

ちょっとわかり難いですね。

バレエやダンスの世界に

当てはめてみましょうか…

 

ディレクターさんや

振付家さんが

あなたの事を

良いダンサーだな~

と評価してくれていて

あなたがそれを感じていたら

自分自身を良いダンサーだと

と評価できる。

 

そして

「なかなかいけるんじゃないの自分?!」

となるわけですね。

 

このようにポジティブな自己評価

最高です!!

 

ネガティブな場合は

上の文の「良い」を

反対の意味を持つ言葉に

置き換えてみてください。

 

自分は良いパフォーマンスしたと思っても、

他人がそう感じていないことがわかると

自分自身の評価は低くなりがちです。

 

残念ながら

ダンサーは自己評価が低い人が多い

とのエヴィデンスが

多く発表されています。

(e.g. Bakker 1991; Marchant-Haycox & Wilson 1992; Hincapie & Cassidy 2010; Aujla et al., 2014)

 

ネガティブな自己評価をしている状態

毎日を送るのは

メンタルが強くないと…

 

それが友人のいう

「厳しい環境」

 

自己評価は

自己肯定感と

密接につながっている。

そちらも興味深いお話ですが、

今回は深掘りしません。

 

「美」のみなもと?

友人の言う

「内面から溢れ出る美」

彼女の疑問は

自分自身または

自分の能力を信用できず

自己評価の低い心理状態で

舞台に立った場合、

どうしたら

この世のものとは思えない美を

表現できるのか。

 

自分の気持ちや

心持ちがベストでない時に

あんなに美しい表現が

できるわけがない!

という主張。

 

そしてなぜ

他人の評価に

一喜一憂しなければならない

イバラの道から

いつまでも

逃げたしたいと思わないのか。

 

ドイツ人らしい疑問!

 

皆がそうではありませんが

何度も引退しようと思いつつ

やめられないダンサーさん達

確かに多く見てきました。

 

どうしてでしょう??

シンデレラ シンドローム!

一度でも舞台に立って

楽しい経験をした方は

同感できるのではないでしょうか?

 

舞台に立つことはある意味で

魔法にかかったような状態。

 

シンデレラが魔法にかかって

舞踏会に行くシーンは

まさにダンサーの心理だと思います。

 

衣装を着て

照明を浴びて

非日常を経験する

 

そこにある意味の

”やめられない”

があるとの結論に達しました。

彼女は「麻薬みたいだね」と。

そうかもしれませんね。

中毒性があるのでしょうか?

 

この非日常を経験できるなら

日常がどれだけ辛くても

頑張れる…のかな?

それは情熱?

 

情熱という言葉

踊ることに情熱を持っているから?

踊ることが情熱だから?

 

ドイツ語で情熱は

Leidenschaft(ライデンシャフト)

前半のLeidenだけを見ると

なんと「苦しむ」という意味になります。

情熱的に何かに取り組むというのは

苦しみを伴うという事?

なんだか暗い話になってきましたか?

 

いえ、こういう話をすると

欧米人は熱くなって

盛り上がります!!

 

ガラスの靴を履いての

舞踏会への招待状は

暖炉のすす掃除を毎日してでも

手に入れたい…

 

複雑ですね。

 

自分にとって

その価値が本当にあるのか

いつまであるのか

見極める事

大切だと思います。

 

12時の鐘がなってから

焦って階段を駆け降りて

片方の靴を残してきてしまう

シンデレラのタイプ人が

ダンサーには多いようです。

 

時計を見ながら

帰宅が遅れないように

舞踏会を去るダンサーは少ないですね…

 

ダンサーの人生は長い人生の中の一瞬。

もちろんそれは素晴らしい

満喫すべき非日常。

努力をして、選ばれたダンサーに与えられる特権!

 

ただ物語のようなハッピーエンドに

そう簡単にならない事実を知らないと…

階段を駆け降りて

大切なガラスの靴を片方置いてきてしまいます。

 

時計さえ見ていれば

優雅に階段を降りて

素敵な馬車に乗って

12時には家に到着

パジャマに着替えてお休みなさい!

ある意味ハッピーエンド!

リスクのない人生は面白くないですか?!

 

 

12時の鐘は必ず鳴ります。

 

 

写真:国民劇場、プラハ、チェコ

 

** Bandura (1977) describes that people come to evaluate themselves positively or negatively based on their own experiences, particularly their performance in domains that reflect something about their attributes or abilities.

Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioural change. Psychological Review, 84, 191–215

 

In other words, we evaluate ourselves as we think others evaluate us.

Leary, M. R. & Terry, M. L., (Aug 2013), Self-Evaluation and Self-Esteem, The Oxford Handbook of Social CognitionDOI: 10.1093/oxfordhb/9780199730018.013.0026

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA